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国内電信級陸上特殊無線技士・受験してきました

JH0EYA (2020.05.12)

 滅多に受験する人が居ないと思うので、これから受験する人の参考になればと思い、経験を書いておきますね。

 電波法では、無線従事者の種類の一つとして「陸上特殊無線技士」というものが定められており、それは政令でさらに「第一級(一陸特)」「第二級(二陸特)」「第三級(三陸特)」「国内電信級(国内電信)」の4種類の資格が定義されております。これらはいずれも「総合無線通信士」「陸上無線技士」の下位資格で、それぞれの資格毎に操作できる無線局の種類が異なります。

 国内電信級陸上特殊無線技士の場合は何が出来るかというと、電波法施行令では「陸上に開設する無線局(海岸局、海岸地球局、航空局及び航空地球局を除く。)の無線電信の国内通信のための通信操作」と定義されています。
 陸上において国内通信を電信で行うことが出来る・・・。およそ今の時代にこれほど必要とされていない無線従事者資格は無いと思います。活用するとしたら自衛隊にでも入るしか無いでしょう。じゃあなんで受験したかというと、アマチュア無線家として自分の和文電信能力を試したかった。というのと、これを取得すれば陸上特殊無線技士資格が全部そろう。という理由だけです。(笑)

 試験の科目と内容は以下の通りです。
    1:電気通信術
        モールス電信 一分間七十五字の速度の和文による約三分間の手送り送信及び音響受信
    2:法規
        電波法及びこれに基づく命令の簡略な概要

 これだけです。法規は第三級アマチュア無線技士とほぼ同レベルといえますので、電波法になじんでいる方はほぼ何もしなくてもOK!
 従いまして、モールス電信(和文CW)さえマスターすればいいのですが、これが結構大変です。一分間で75文字、3分間でカタカナ文字225文字です。単純に書き取りするだけでもかなりの速度を必要としますよ?



 
1:和文CWを覚える
 当然、和文のモールス符号を覚えるところから始まります。
 私は1アマの試験で和文モールスの送受信試験を受けた世代なのですが、あれから数十年。一部の符号は忘れたのでそのリハビリから始まりました。
 いままでモールス信号の暗記には古式ゆかしい紙製の「単語帳」を使用していたのですが、今回は子供が家に残していった電子辞書に単語帳機能があることを知り、  その電子辞書でマスターしました。どこでも使えるので重宝しました。

2:受信練習
 受信練習はまずは1アマの時に使用した、50文字/分くらいの速度から始めました。別に受験を急ぐ必要も無かったので、50文字で一ヶ月、60文字で一ヶ月、75文字で一ヶ月と、  かなりのローペースで進めました。音源は大昔に購入したカセットテープです。ラジカセ(死語)もまだ取っておいたので使えました。でもさすがに動作が不安定だったので、途中からデジタル化してパソコンに音声データとして落としました。(笑)
 ここで大切なのは、「必ず紙に書く」ということです。アマチュア無線をやっていると、慣れた人は紙に書かずに頭の中で受信して大意が判れば交信が成立しますが、試験では受信した内容を一言一句紙に正確に記述しなければ合格できません。「オハ」と流れてきたから次は「ヨウ」だろうな、などと先を読まずに、受信した文字を一文字一文字、紙に書くくせを付けます。


   さて、速度が75文字までになったら今度は「額表」の対応です。
 「額表」とは簡単に言えば、電報を送受信するための「書式」のことです。そしてこの書式にはいろいろな決まり事がありまして、それに従って受信・送信しなければなりません。  細かいことは省略しますが、例えば、最初が数字じゃ無くて文字ならばそれは「種類」に記入すべき内容、最初が数字ならばそれは「字数」に記入すべき内容とか、発信局が数字の場合には  「ハツ」を前置し、文字なら「ハツ」付けないとか、いろいろ面倒なんです。
 それらのルールを熟知しないと、書くべき所に文字が書けなくて、せっかく受信できているのに不合格。
Σ(゚д゚lll)ガーン

 アマチュア無線をやっていてこの資格を受験するには、この「額表」が一番の難関かもしれません。
 私は最初、額表の音源としてモールス通信練習用CD(2枚組) 一・二・三総通用を使用していたのですが  これはカセットテープを単純にCDにしただけなのでトラックの区別が無かったりで非常に使い勝手が悪い。そんなとき、A1ABreakerというフリーソフトを知り、これを使用して練習しはじめました。このソフトは初級用にも総合通信士用にも使えるという大変便利なソフトなので、電信を覚えようという方にはお勧めします。このソフトさえ有れば他は何も必要ないと思います。
 受信用紙は和文受信用紙という市販品です。受験のためですので多少の出費は仕方有りません。

 2ヶ月くらいこの調子で進めたのですが、さっぱり進歩しません。その後受験一ヶ月前になっても進歩しない自分に嫌気がさし、やけになって受信速度を85文字/分まで上げて受信すること2週間、ずっと7〜8割しか取れない受信練習を続けました。で、ある日ふと75文字/分にスピードを下げたらアレ? 75文字/分が嘘のように受信できる!!
 人間、諦めちゃダメですね。何かのきっかけで先が見えることがあるようです。

 ずいぶん長期間にわたり練習したように見えるかもしれませんが、一回の受信練習は5〜10分です。あまり長くやっても効果があるとは思えませんでした。ただし、暇を見つけてはほぼ毎日受信練習を行いました。
 額表を受信するようになってから、全く上達せず、自分の限界を感じたこともありましたが、そこは諦めず、継続することが大切と感じます。ただひたすら諦めずに続ければ、どなたでも同じように上達するものと考えます。


3:送信練習
 送信練習は和文電報練習帳を入手して送信用原稿としました。
 電鍵は縦振電鍵での受験を最初から諦めており、パドル(エレキー)での受験を目指しました。パドルで受験する場合、パドルを持参する必要があるのはもちろんですが、  キーヤー(短点と長点を発生させる回路)も持参する必要があります。最近の無線機はキーヤーが内蔵されており、単体のキーヤーを見つけることが難しくなっています。  パドルで受験を目指す方は早めにキーヤーを探すか自作された方が良いでしょう。 なお、AC電源とかは試験場の方が考慮して下さっているので、AC電源のキーヤーを持参しても  問題はありません。
 なお、私の場合はパドルとキーヤーが一体になった、40年くらい前のエレキーで受験しました。

 送信練習で大切なのは「間違えたら必ず訂正符号を前置して訂正すること」です。このくせを付けておかないと本番で痛い目に遭います。本番で送信ミスを犯しても、訂正すれば  誤字を送信したままより減点は少なくて済みますので、必ず訂正するくせを付けてください。

 なお、送信練習は受験の2ヶ月くらい前から始めました。受信できるようになれば、自然と送信できるようになります。送信の練習も、一日5〜10分でした。受信練習した符号と同じように送信すれば、自ずと同じ速度で綺麗な符号になると考えます。

4:受験当日
  受験票と筆記具とエレキーを忘れずに持参いたしました。試験場に入ったのは試験開始40分前くらいです。
 会場には20人くらいの受験者がいましたが、殆どは私と同じかそれ以上のオッサン。若い人も希に居ましたが、それはどう見てもこの資格で飯を食おうという職業の方に見えました。(笑)
 電鍵を取り出して練習をしている方も居ました。中にはバグキー持参の方もおいででした。バグキーで受験とはすごいなあ、と感心いたしました。あれで長点と短点を3:1で打つのは至難の業です。試験は打鍵が速ければ良いというものでは無く、正確さも要求しておりますので。

 やがて試験官が入ってこられて試験の説明を始めます。まずは受信から試験が始まります。その説明の間に受信用紙が配られます。例の額表です。用紙は本番用が3枚と練習用が1枚、  説明を聞きながら、用紙に受験資格・受験番号・氏名を記入します。
 説明が終わると受信練習です。CDプレイヤーから「レンシユウ」で始まる電報形式の電文が1通流れてきますので、練習用紙に記入します。ここで緊張しても負けですし、流れてくる電文に  没入できないと負けです。
 そしていよいよ本番です。(文字数・取れた!)(ハツだから次は数字だな)(あれ?発信局と番号の切れ目は?)(うわ、時刻取り損ねた)・・・などと75文字/分の速度で流れてくる  電文を次々と書いていきます。電報は全部で2通。長文の電報と短文の電報があるのですが、どっちが先だったかは忘れてしまいました。途中、明らかに誤記が発生したのは判ったのですが  訂正する暇も無く電文が先に進みましたので一本線だけ書いて受信を進め、全部終わった後に二本線で文字を消しておきました。上記に記載したとおり、電報のヘッダはメチャクチャだったのですが、本文の方は無事だったのが幸いでした。

 受信の試験が終わると今度は法規の試験です。その後に送信の試験があるため、解答が終わっても時間が来るまで退出が認められません。幸いなことに(?)一問だけ解答に自信の無い 設問があり、それをあれこれ悩んで30分を過ごしました。(結局その問題は間違えてました)
 どうでもいいことですが、法規を解答しながら思ったのは、「マークシートが細かくて見えない!」事でした。こんなところで老化を実感するとは・・・。次回、マークシート方式の受験をするときには、ハズキルーペが必要かもしれません。(苦笑)

 その後、受験番号順に別室に呼ばれて送信試験です。部屋では同時に3人が受験可能な状態でした。試験官の前に座ると、標準の電鍵を取り外して持参したエレキーを取り付けます。極性は関係ないとのお話しを頂いたので安心して取り付けました。あまりに古いエレキーで、配線作業にマイナスドライバーを必要とする機種だったので時間がかかってしまい、申し訳ありませんと詫びると、試験官から「いえ、大丈夫ですよー」と優しい言葉を書けていただきました。
 送信原稿を確認し電鍵を調整した後ヘッドホンを装着し、受験番号と氏名を送信した後に送信開始です。
 送信中、試験官が装置(電鍵の信号を記録する装置と、試験官と受験者がモニタできるヘッドホンが接続されている)のボリュームをいじると、私が装着しているヘッドホンの音像定位が右に行ったり左に行ったりするのには往生しました。「このぼろくそ装置が!」と内心で毒づいたのですが「いやいや、これに気を取られたら間違ってしまう。平常心平常心。」と、時々モニタ音が右に行ったり左に行ったりするヘッドホンで自分の送信音をモニタしてました。
 受信と同じく、送信も電文は2通有りました。訂正は8回くらい行ったと記憶してます。それに加えて誤字が1文字。
ですが、全ての送信が終わってから試験官の方より「受信が大丈夫なら問題ないと思いますよ」とおっしゃっていただき、一縷の望みを得ました。

 後日ネット上で合格者を確認すると、あれだけ受験者がいたのに合格者は3名、全国でも4名でした。結構狭き門なんだなと驚きました。それから数日後、届いた「合格」のハガキ。いやー、いくつになっても合格通知は嬉しいと思いました。そうして手にした免許証の番号は「1番」。無線従事者免許証、9枚目にしてようやく手に入れた1番でした。


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